痴虫・ヤイカ
105mm・3/4oz

chimushi(痴虫)のヤイカ。
2004年に登場したハンドメイドプラグ。
風来堂のホームページで目にして「んっ!?」と興味をひかれた。
パッと目をひく金属製のプレート。
くちばしが付いたようなあやしい表情とユニークなカラーバリエーション。
「奇」を主張しながら、その根っこにはきちんとした気持ちがあるような気がして、迷ったけれど通販で手に入れた。
箱を開けて実物を持った瞬間、「これは良い」という実感がこみあげてきた。
ボディは2つに分かれているのではなく、股状に形成されたプレートに合わせて溝が掘られ、プレートは2つのヒートンとお腹の2ヵ所のネジで固定されている。
目玉はオリジナルだし、カラーリングも細かな部分まで気を使っていて、この色ならではのイメージがプラグに宿っている。
リグ組みひとつとってもかなり面倒臭そうで、まさに力作という感じ。
同封の説明書でもっとも推されているのが、頭上フロント側のヒートンに結んでのアクション。
不器用で不規則な、まさにダーターらしい動きで、ふっと、エスケープするような足の長いダートが特徴的。
どうやらそれがアルミプレートの効果みたいだ。
キャストのコントロールがやや難しいが、思い通り操って魚を手にできたら、とても気分いいいと思う。
個人的には、一番下、アゴのヒートンで使うのが気に入っている。
ラインスラックを多めに出して「うりゃうりゃ」とはたく。
と、ジュルジュルと飛沫をあげながらショートスライドし、独特の余韻が残る。
少しコツがいるけれど、それも含めて充実感あるフィーリングがいい。
プレートの効果としてもうひとつ挙げておきたいのが着水音で、このサイズのウッドボディからは想像できないような軽く柔らかい音をたてるから、釣れる気がグン、と高まる。
すでにイトウの反応は得ている。
ひだり、ひだり、ひだり・・・と、何回か身もだえさせ、スッとダイブさせた瞬間、グワッというイトウの影。
デッドスローのふらつく動きで、倒木の際を通過させると「ドッ!」と突っ込むようなバイト。
いずれもフッキングに至らず、小さな歯型がボディに残された。
1996年ころからのハンドメイドトップウォーターブーム以降、新しいブランドやプラグがつぎつぎと登場してシーンは確実に豊かになったが、さすがに最近は新味も薄れてきた。
というところにきてこの出会い。
新鮮な驚きに心を打たれるプラグと新たに出会えたことがうれしかった。
この先、少しずつでも、思いのこもったプラグを世に送りつづけてほしい。
と、2005年にブログで書いたが、2024年の9月、JB・TOP50の桧原湖戦で宇佐見素明氏が痴虫の《でっカブメスJr.》を使用しキッカーフィッシュをキャッチし優勝。
痴虫はインディーズルアーではじめてウイニングルアーになった。
この達成に至る萌芽はこのヤイカにたしかにあった。と思う。
と同時に、当時はなにも約束されていなかった長い道のりを想像すると、結果論が言えるそのこと自体に、とくべつな重みを感じずにはいられない。
(”something about TopWaterPlug”2005年2月14日の掲載記事を加筆修正)