
ミルキーボーイは、1983年、クライングフロッグとともに、スミスのカタログに初めて掲載されたハトリーズプラグ。
当時のカタログやパッケージには「ミルキーボウイ」と表記されていた。
僕がこのプラグを手に入れたのは大学生のときだったと思う。
今はもうないが、静岡県の焼津に「SURFACE」というトップウォーター専門店があって、委託品の中古ルアーが並ぶガラスケースのなかにミルキーボーイがいた。
いま思えばかなり良心的な価格設定だったと思う。
おかげで初期のハトリーズと出会うことができたのだった。
ミルキーボーイという名前には「おくびょう者」という意味が込められているらしい。
おどおどして見えるかはさておき、この間の抜けた表情がたまらない。
愛嬌があって、しぜんと親しみがわいてくる。
なにかを模しているのでもなければ、表情を緻密に作り込んでいるのでもないのに、どこかでこんな生き物を見たような気がしてくるのも不思議だ。
そんなミルキーボーイをリトリーブしてみると。
水中に頭が沈みこむことなく、引いた分だけプロペラが働く。
チョンとラインをはたけば、さっと横を向きながら、スイッシュ音を奏でる。
頭の丸いシングルスイッシャーのように、ピョコピョコとおじぎしながらではなく、水の抵抗をかわすようにな機敏な首振りをみせる。
回収時の回転もしにくい。
このアクションには驚いた。
奇抜な見た目は、性能と深くつながっていたのだ。
当時の僕は、ハトリーズを「ユニークなデザインが特徴のメーカー」くらいに思っていたが、そのイメージは大きく変わった。
プラグのキャラクターとアクションが、お互いを求めて、ひとつの世界を作っている。
機能美という言葉の意味も更新されたようだった。
今みれば、この細く尖った部分は、ヒートンをねじ込むときに割れやしないか気を使いそうだし、攻めた造形にも思える。
一緒にカタログデビューしたクライングフロッグも凝った形をしていて、当時のバサーはそのデザインに驚愕したとも聞く。
このプラグたちの発表で、シーンに一石を投じてやろう。
挑戦的というか野心的というか、そんな羽鳥さんの思いがあったのかも。
などと想像もふくらむ。