3月はじめ、あたたかい日

徳島に行ってきた。

この日はT.B.F.C(Tokushima Bass Fishing Club)の室内イベント参加が目的。
しかし予報は曇りときどき雨、最高気温18℃。
たまらず釣り道具も抱えてバスに乗った。

徳島駅から会場のランドロックまで歩いて10分ちょっと。
行きのバスで読んだエッセイに、「ほんとうはあのとき……」みたいに、友人と過ごした時間を後になって一緒に振り返るってすごく特別だよね、といったことが書いてあった。
そのムードに影響されたのか、会場に到着するまでに目に映るあれこれがとても新鮮に感じる。
このぜんぶを忘れたくない…という思いがこみ上げてくる。

イベントはいずれ小さな冊子にまとめられて届く。
ページをめくりながら、あの空間のこと、目にしたルアーのこと、顔を合わせた人たちのことを思い出すだろう。

イベント会場を先に抜けて16時すぎに川に着くと、見たことがないレベルで減水していた。
Kenziさんの船頭で川を下っていく。

大学の休みには毎年といっていいほど訪れていたこの川だが、春休みに釣ったことはない。
バイトの記憶もない。
しかし「今日は期待できるかもしれない」と思っている。

狙いの支流に入ってすぐ、コンクリート壁と、少し沖にゴロタ岩が頭をのぞかせたポイント。
岩に沿ってキャンディシュリンプをぴょこぴょこと首振りさせていたら、かぷっとバイトがあった。
びっくりしてちょっと待って、ルアーが沈んでいる気もしたのでロッドをあおるが手ごたえなし。

??

もうワンキャスト。
同じように誘いをかけると、黒い影がルアーの下についた。
長い。
ナマズだ。

ナマズは好きだが、今はそのときではないとピックアップ。

減水のため支流もすぐに遡行不可になって引き返す。
さっきから細かい雨がぱらぱらと降っていて、川の景色は煙ったようにかすんでいる。
むっとした空気に、ボートに驚いた鯉がはねたり、逃げる魚の引き波も見える。

流入河川の最下流でKenziさんにナイスバイト。
岸から離れたところでヴァンガードが襲われ、乗らなかったがバスらしいバイト。
今日一日でぬるんだ水に誘われたバスたちが、やる気になってあたりをうろついている、そんな気配がしてくる。

夕闇が迫ってきてJUNKYS JUNKYSのノイジーに結び変えた。
さっきヴァンガードにバイトのあったエリア、芦際に着水し、ゆっくりとカショカショカショカショカショ……ガシャ!

よっしゃーと思わず声が出てロッドをあおる。
ちょっと手ごたえを感じたような気もしたが、ルアーだけが帰ってきた。

心臓の高鳴りを感じながら、(持ち込むまでもう少し間をあけていたら)、(ロッドをあおるんじゃなくてリールを巻いていたら)、(よっしゃーと言う前に状況をよく観察していたら…)。
頭のなかでぐるぐると思いがめぐる。
そもそも、何が起こって、どうなったのか。
記憶がはっきりしない。

あのバイトの瞬間に戻りたい。
どうしようもない強い思いがこみ上げてくる。
同じくフックアップに至らなかった同船者によく伝わる気がして、「もどりたーい」と声に出した。

スロープに戻りながらの、遠くに幹線道路の灯りがある景色がすてき。
雨でスマホを出すのをためらっていると、船尾でシャッターを切る気配がする。
やっぱり自分も、と、上の1枚が記録されることになった。

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