「おばちゃんやな?…とうちゃんと、おばちゃんやな?」
スロープ近くの駐車場でホソミと日の出を待っていると、地元のおばあちゃんに声をかけられた。
「おばちゃんやな?ハイカラなシャツ着とるから」
チェックのシャツを着ていた僕が女の人に見えたらしい。
夫婦でバスフィッシングにきました。
「おっちゃんですよ」
「ごめんな。80過ぎで、顔がよく見えんかったから」

ダムは満水で、水の流れが止まっているのか、水面は岸ぎわからボートを流すあたりまで木くずに覆われている。
小さな茶色のつぶに桜の花びらが混じる。
ドロップラットからスタートするつもりを、ダブルフックのブッシュマウスに変えた。
それでも、きついオーバーハングに狙いどころが定まらず、落ち着かないプラッギングがつづく。
船頭のホソミは、いつもよりボートポジションを遠くにとって、沖めのハングの際を打っている。
ルアーは果敢にも思えるバブルマズル。
「意外といけますよ」
岸から離れたあたりをうろうろしていそうだと、木くずを蹴散らしながらアグレッシブに首振りをさせている。
大声に振り返ると、沖で大きな波紋が起こっている。
バイトがあったが乗らなかったらしい。
波の輪の真んなかには、プラグがぽつんと残されている。
水流で木くずがまばらになった水面を、バブルマズルが鋭くスケートする。
ぼっ!
破裂するような音がしてプラグがさらわれる。
ひと呼吸置いて、フッキングが決まった。

午後に仕事があって、10時でストップフィッシング。
いろいろ投げて楽しかったけど、やっぱりプラッギングのままならない一日だった。
僕は、つんつん、1回だけで初バスは持ち越し。
ホソミの、黒々して、太っていて、ピカピカのバスが唯一のまともなバイトだった。
おとうちゃん、さすがやわー。
