バスで徳島に向かいながら、むかしの感情がよみがえってきた。
学生のころ、春休みと夏休み、青春18きっぷで徳島に通っていた。
浜松、大垣、米原、大阪、姫路、岡山…
電車を乗り継ぎ西へ西へと、実家から10時間以上かけて四国に上陸したら、香川から徳島まであと2時間の汽車の旅。
あたりはもう暗くなっていて、車窓から見た外の景色の記憶はない。
乗客は少しずつ減っていって、この車両には自分ひとり。
車掌さんに降りる駅を聞かれ、到着前に「つぎだよ」と声をかけてくれたこともあったが、乗り過ごすなんて考えられなかった。
目的地に近づくころには、僕の心臓はばくばくと音を立てて身体から飛び出しそうになっていたからだ。
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今回は朝イチの大阪発のバスに乗って、Kenziさんと10時ころから釣りスタート。
開始早々、どういう展開だったか「アクションの「正解」とは?」という話題になり、ハトリーズのエピソードがはじまったところで、少し先の水面にいくつかの波の筋が立って岸に駆けるのが見えた。
それなりの大きさの小魚が追われている。
とっさに波筋の先にチックイーターを投げると、まっ黒い影がプラグの横についた。

チックイーター(CHICK EATER)は、イベントJUNKYS JUNKYSの2024年のスペシャルプラグ。
記念プラグは希望者に後日送られてくる仕組みで、当初は参加者でアイデアを出しあってオリジナルカラーをリクエストしていたが、ここ数年はスペシャルモデルが続いている。
レギュラーとはひと味違うチャレンジングなプラグも多く、届いてびっくり!ということがある。
チックイーターも、箱を開けて「なんだこれ!?」だった。
全長は120mm。
バルサ製のため持った心地は軽いが、40グラム近くある。
やや扁平で、細めのヘッドにぽってりとしたお腹、テールはきゅっとすぼまっている。
赤い単色の目玉で、魚というより鳥のような動物を連想させる怪異な存在感。
このプラグが意外なほど芸達者。
軽やかに着水し、ワンアクション目から首を振る。
横っ面で水を叩きながら飛沫をあげてキレよいターンを見せたかと思えば、ラインスラックをきもちゆっくり引くと、ぬーんと静かに水面をすべる。
力のかけ方と抜き方で、上下の余韻を大きく出してみたり、ピタッと静止させてみたり。
この大きさでこの操作性の良さが、バルサならではなのか。
自分とバス、その瞬間瞬間の正解を探しながらのプラッギング。
視覚的な充実感もあいまって、使っていてとても楽しい。
はじめて使ったのは去年の11月。
そのときのことは釣行記に残した。
謎の巨大魚の強烈なバイトの直後にラインブレイクしたが、後日Kenziさんが見つけてくれ、奇跡の生還をとげたのだった。
11日間も水に浸かっていたにもかかわらず、ボディには影響がなさそう。
さすがにフックは黒ずんで、ポイントは丸くなっており、1カ所はなぜかカエシが潰れている。
交換しようとも思ったが、ここはフックポイントを研いで使うのが作法でしょう。
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バスとの距離は15センチ。
いきなり現れた不審な物体に怒り、にらみつけているようにも見える。
間をあけず首振りをさせると、バシュ!と襲ってきたが、ハリには触れずバスも消えた。
プラグの下腹、巨大魚の歯型が残る近くに、べつの大きな歯型が残された。
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前の週の雨で支流には濁りが入っていた。
前回の釣りで感触のよかったハトリーズのバブルダンサーを投げる。
ポッパーとしては今まで苦手意識のあったが、ダーターの感覚でポップ&ダイブさせたら「こりゃあ釣れる!」てなった。
葦際に投げてポッピングとともにちょっとダイブさせたところで、ぐわっと大きな波紋が起きてプラグがさらわれた。
間合いは素晴らしかったけど、すぐにライギョだと察知。
ラインがぐるぐる巻きになってひやひやしたが、なんとかネットに収まりリリースできた。
フックはこれ!

気づけばお昼をゆうに回り、太陽も傾いて日差しがやわらかくなってきた。
朝のボイル以降はバスのバイトもない。
「釣れなくても楽しい」
というのは、スタイルの表明というよりたんなる事実だ。
トップウォータープラッギング自体がとんでもなく楽しい。
だけど、ラインスラックをそっと張る瞬間、そこに期待や思いが込められているからこそ、バサーにとっての美も出現するはずである。
岸際にたくさん茂ったクズを見ながら、Kenziさんがその若芽を食べたことを教えてくれる。
芋のような甘みがあるらしい。
クズは葛湯や葛餅の材料であり、漢方の原料にもなる。
だけど外国に渡ったら、脅威の繁殖力でグリーンモンスターと呼ばれる侵略者だ。
風が少し強くなってきて、水面に小さな波が立つ。
釣りをはじめて半日、ここ数年はずっとそうだが、今日も厳しいらしい。

鉄板の岸辺が終わるあたりにクズが茂っていて、その真ん中が小さなポケットのようになっている。
「クズポイント」などと言いながらロッドを振りかぶる。
暗がりにチックイーターを投げて、ひと呼吸。
ポイントから移動させないよう、軽く一回だけスラックをはたくと、プラグはクッと左を向いて短くスライドし、揺れている。
がぷ!
魚の影が現れたつぎの瞬間食らいついたのか、食らいついたあとにその白い姿が見えたのだったか。
ルアーが沈んだのが見えて、リールを巻いてロッドをあおる。
大きい。
一度ボート際まで寄ってきたが、また右へ走る。
針が外れないことだけを祈りながら耐え、ふたたび寄ってきたところをKenziさんがすくってくれて、ふたり同時に叫んだ。


もしや50…と思ったが、測ってみると45.5センチメートル。
縮むよねー。
このあと、ピーソーカーにもバイトがあったが、びっくりしてタイミングが早すぎたのかフックアップせず。
だいぶ首振りさせてきたところの沖で出て、うれしかった。

夜のバスで大阪に帰る。
釣りの行きと帰り、運転するでもなくひとりで過ごすってふしぎな感じがある。
バスのなかで今日起きたことを携帯にメモ的に残しておく。
あったことや交わしたいろいろな話をもっと覚えていたい。
学生のころ、24年前の電車の長旅、帰りの記憶はなぜかまったくないのだった。
帰宅して、静まった家のリビングでビールを飲みながら、今日使ったプラグをひとつひとつ見直す。
リグや目玉にたまった水気を除いて汚れを拭く。
プラグについた歯形をしみじみ眺める。
こういう時間もじつに久しぶり。
いいバスフィッシングだった。