助手席のドアを開けて外に出ると、虫たちの声に包まれた。
この音色、この響き方、ワンピースロッドを手に自転車で通ったあのころの野池のノスタルジーに駆られる。
そのことをヒデキくんに伝えると、「そうなんですよ」と応えがある。
「実績のあるポイントとか、言った方がいいですか?そういうのいらないですか?」
と質問があって、言わんとすることがよく分かるし、それを確認するということもおもしろい。
学生のころ、メバル釣りに連れてってもらって根掛かりを外しながら猿さんに「言ってくださいよ!」と言ったら、「知らんほうがおもろいやん」と返されたことを思い出した。
オーバーハングにはじまって、冠水した植物、ちょっとした流れ込み、コンクリートの壁。小刻みに切り替わっていく景色が楽しい。
壁のところでヒデキくんのチョップドアブサンにバイト。
ちょっと間をあけてフッキング。
でかい?と思ったところでジャンプ一発、絵に描いたようにプラグが飛ばされてアベレージサイズのバスは帰って行った。
アウトレットのところまで来て、自分で握ってきたおにぎりを食べる。
一個食べたらもっとお腹が空いてきてもう一個を取り出してヒデキくんの釣りを眺める。
アウトレットの横のコンクリートの柱の角にチョップドアブサンが着水すると、ほどなくしてプラグが消えた。
フッキングモーションと同時にするっとプラグが抜けてくる。
ちょっと間をおいてもう1投。
いくらか引いてきたところで再び水面が割れた。

今度はジャンプしてもばれなかった。
口を開けてすーっと水面を滑るバスの口に親指が入った。
「このポイントはこの時期に実績があります」と教えてくれる。
そんな風に思えずおにぎりを食べてしまっていた。
今日は、ヒデキくんがお気に入りの釣り場を案内してくれるというスペシャルデイ。
ヒデキくんとは去年のJUNKYS JUNKYSで初めて会って同船した。
トップウォーターバスフィッシングとトップウォータージャンキーが好きという共通点があるものの、歳はひと回り以上離れている。
「また一緒に釣りに行きましょう」
の言葉が現実になるかどうかは巡り合わせみたいなもので、こうして一緒に船に乗っている不思議を思う。
同じくTWJ好きのヤタニくんも来てくれるとなって、どきどきして釣行前に寝られなかったのは久しぶりだった。
「少し手を入れて使えるようになった」と、ヒデキくんがうれしそうにアメリカンプラグを投げている。
その感じが素敵で趣味を刺激される。
太陽が昇ってきて、日なたが一気に暑くなってきた。
時間はまだ7時。
ここまで、ギルがつんと突くようなことはあったが、僕にはっきりしたバイトはない。
日の光をオーバーハングが遮って、その下には蔭ができている。
水中に向かって倒木が刺さったそのふところ、蔭がいっそう濃くなったピンスポット。
オレンジに光るチョップドアブサンが入った。
小さく広がる波紋の中心で、ジョイントプラグがゆらゆらと動く。
「これは釣れるわ」とつぶやく。
直後、ボコッ!と水面が割れた。

数日前までの雨で、まだ濁りの残ったこの日の釣り場はとくべつだったらしく、その後もナイスバイトに船上が沸いた。
細い筋の行き止まり、オーバーハング下の浅瀬の奥で、途中の枝にラインが引っかかっちゃって、ロッドを捌いて外そうとしていたら「ちゅぶ!」とバイト。
「これどうしたらいいのー」とそのままヘコヘコアクションを続けると、セビレを立てて近寄る影がそのままプラグを吸い込んだ。
かけた直後に枝からラインが外れ、アドニスのグラスロッドが弓形に曲がる。
下に突っ込む強い引きをなんども耐えて引き寄せる。
と、思ったら、魚からの振動が消えた。ロッドは弓なりのまま。
「水中の木に絡まれた?」
なすすべ無くそのままテンションをかけ続けていたら、ゴンゴンと再び魚信が伝わってきた。
左手で分厚い下あごを掴む。

ヒデキくんも、またも2回目のアタックで、SKYのドロップラットをばっこり咥えたナイスバスを手にした。
8時にはもう暑すぎて湖上にいられず、温泉に入ってだらだらしゃべって、寝る。
夕まずめに新たな釣り場を案内してくれた。
今度はヤタニくんの、代々伝わるカヌーに乗りこむ。
僕とほとんど同年代だけど、ヒデキくんに触発されてトップウォーターバスフィッシングを初めたのはまだ数年前のことらしい。
この釣り場は、岩場にときおり松の木が生えていて、お寺の庭を思わせる景観。
通い慣れたダムのかなり上流までいったところに似ている。
僕がプラグを変えて投げてアクションをつけるたびに、ヤタニくんがプラグの色について感想を飛ばしてくるのが面白い。
この釣りの魅力は視覚的な快だと思ってはいたけれど、アクションよりも、ポイントの景色と、そのなかにあって輝くプラグの色に反応するセンスが新鮮だった。
僕もそういう感覚で釣りしてみようか、という気になる。
この夕方の部はヒデキくんのバラシのみで終了。
とはいえ、最近はなにも無く終わることが多い夕まずめ、この日も生命感がなく沈黙を貫くフィールドから1匹の魚の反応があったという事実に勇気づけられた。

1日、2人と色んな話をした。
そして、ルアーの話をこんなにいっぱいしたのは久しぶりかもしれない。
目玉がどうだとか、色がどうだとか、質感がどうだとか。
睡眠不足で、暑くて、ヘトヘトになったが、それ以上に、2人の熱にあてられた、と言っていい。
仕事に没頭していたから、バスフィッシングと距離が離れてしまっていて『フライの雑誌』に書いたものにもその心境が現れているが、前回初バスを釣って、この日の釣りがあって、またバス釣りが頭に住みついた気配がしてる。
ヒデキくんのブログ。素敵な写真に、文章も楽しい。おすすめ!
Riverside sound)))s