国(環境省と水産庁)が公表している「オオクチバス等に係る防除の指針」が、来年の3月に改定されようとしている。
ブラックバスが特定外来生物に指定された2005年に作られた指針で、今回は約20年ぶりの改定となる。
この改定の話題を追っていけば、日本のバス問題が今どんなポジションにあるのか分かるのではないかと思ってチェックしている。
9月に第1回の検討会が行われ、先日その内容が公開されたところ。
つぎは12月か1月に第2回目がある。
現状をまとめたので公開します。
「防除の指針」はバス対策のハウツー
そもそもこの「防除の指針」なるものはなにかというと、外来生物法の枠組みのなかで、ブラックバス(スモールとブルーギルも含む)の駆除や侵入・拡散の予防を効果的に行うための考え方やハウツーをまとめたもの。
国は大きな方針は決めるけど、じっさいに手足を動かすのは各現場の組織(地方自治体や民間団体、個人)なので、それぞれ思い思いの活動をするんじゃなくて、ポイントを理解してやりましょう、というスタンスで公表しているものだと思う。
かなりざっくり書くと以下のようなことが書かれている。
①優先順位を考えること
②目標を決めること
③効果的な対策方法をとること
④計画を作ること
⑤実施体制を整えること
特に③については詳しく、駆除と合わせて環境改善の必要があることや、実施後は生息状況などをモニタリングして検証することが大事といったことも書いてある。
実際にどの程度この指針の通りに運んでいるか、また運べるものかは分からないが、少なくともこの指針は地に足のついたものだと思う。
一部のテレビやSNSでは過激な発信ばかり目について気持ちがざわつくが、この指針を読むと、現実的な運用が目指されていることが分かり、少し冷静に状況を見てみようという気になる。
(この指針を読むとバス対策の理解が深まるので、興味のある方は目を通してみるといいと思います)
オオクチバス等に係る防除の指針(改定素案)
改定の背景
この指針の改定はホイホイとはできないものらしく、約20年ぶり初めての改定となる。
改定の背景には以下の法改正などがポイントとしてある。
・2022年5月に外来生物法が改正された(2023年4月施行)
・その改正のときに「バスの被害や違法放流の実態を把握して、違法放流の撲滅と防除の取組を強化すること。「防除の指針」を見直して対策の効果を高めること」が補足で決まった(付帯決議)
・2023年3月に決まった生物多様性国家戦略2023-2030でも「防除の指針を2024年度までに改定する」と盛り込まれた
「外来生物法」、「生物多様性国家戦略」と2つの規準が出てきた。
外来生物法ができたあと、2008年に生物多様性基本法が成立し、現在では生物多様性基本法がより広い範囲をカバーし、外来生物法はそのなかに置かれている、という理解でいいと思う。
今回はその両方で指針を改定すべしということが表明されている。
ところでぜんぜん知らなかったのだけど、上記の法改正のときに「防除に関する責務規定」なる内容が新たに追加されていて、そのなかに、国民を対象にした責務も含まれていてびっくりした。
そのまま引用しておく。
「事業者及び国民は、外来生物に関する知識と理解を深め、外来生物を適切に取り扱うよう努めるとともに、国及び地方公共団体が実施する特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する施策に協力するものとする。」(第2条4)
検討会について
指針の改定については、まず国から案が出され、それについて委員を交えた2度の検討会を行うというもの。
委員は9名の専門家などからなる。
また横道にそれるけど、委員は全員「バスの防除に賛成」の人たちで、バスや釣り業界からの出席者はいない。
ただこれは、おかしなことでもなんでもなく、特定外来生物にバスが指定された時点で防除の方針はゆるぎなく決まっているし、そのハウツーを検討するのだから、こうした専門家が集まっている。
ただそれだけのことだと思う。
ブラックバスは国の外来生物法で特定外来生物に指定されているのだから、公共的な取り組みがバサーの意にそぐわないのはあたりまえで、そこに悪意を読み取らないことが、バサーが心の健康を保つ術だと思っている。
スモール拡大への危機感
改定案を読んで見えてくるのは、スモールマウスバスの拡大と、その原因となっている違法放流への危機感である。
国が調査を実施している河川のうち、スモールが生息しているのは20年前には4%だったものが、直近で20%以上まで広がっている。
この現状を反映して、改定箇所もスモールの生息域などに関するものが多い。
気になるのは、侵入の予防の項目のなかで「オオクチバス等侵入の監視」につづけて「(密放流の防止含む)」と追加されたところ。
ブラックバスや近年のスモールの拡散の原因について、人為的かつ意図的な放流が疑われているようなのである。
疑われるバサー
第1回の検討会でも、この生息域の拡大について委員から厳しい発言が目立った。
釣り目的でコクチバスの違法放流がされているのではないかとの疑いが示され、「放流したもの勝ちの状況が放置されている」といった強い批判もあった。
バス釣りが禁止されていないために、新たにスモールの生息が確認された河川などにバサーが釣りにくる、といったことが起こりうる(おそらく実際にある)。
その構図が、違法放流の温床になっているのではないかという指摘である。
そういった目的での密放流があることに注意すべきだと、指針にも盛り込んで欲しいとの提言も複数あった。
バスの違法放流による検挙の例はこれまで1例もないにもかかわらず、である。
またスモールが入ってバス釣り禁止に踏み込んだダム湖(山梨県琴川ダムにて2024年4月から)があることを記載して、抑止効果の例とすべしといった意見もあった。
ただ検挙例などがないなかで、指針にどこまで具体的な表現を入れられるかは難しい、という感覚も委員たちは共通して持っている(たとえば、「ルアー釣り」といった言及さえ難しいだろう感覚がある)。
ここについては公的文書という範囲内での、とても常識的な話し合いがされているという印象を持った。
もうすぐ示されるはずの改定案2に、この点がどう盛り込まれるのかを注目したい。
第1回検討会議事概要
バサーはどうすべきか
さて、ここまでが現状になるが、これをどう受けとめるべきなのだろうか。
バスの拡大が止まらない原因について「確たる証拠が示されているわけでもないのに…」とバサーとしては思うし、公的な文書としての適切性はいち市民として大事な問題だと思う。
ただ、議事概要を読むかぎり、この検討会で行われている議論に違和感はないし、それぞれ微妙に立場の異なる専門家が声を同じくしていることにも切実さを感じる。
私としては、むしろバス業界の今後の取り組みの方が気になる。
こうしたバサーへの疑いについても、日ごろから啓発活動を積極的に行っていればまた異なる空気感が作られていたように思う。
業界として
「生息域の拡大は決して歓迎できないことで、放流などもってのほかである。疑われるような行為も望ましくなく、水辺の監視人としての役割を果たしていきたい」
そういうメッセージを、日釣振や大手メーカー、メディア、バスプロなどから発信してほしい。
それがバサーを守ることにつながるのではないのか。
特定外来生物指定時のはしご外しや、本音と建て前を露骨に反転して制定されるリリース禁止など、バス問題に関する政治への不信感は私にもある。
しかし、バスの生息域の拡大は現実として起こっていて、それは私たちにとってもぜんぜんうれしいことじゃない。
そこは一致しているはずだが、あちら側にはそれが伝わっていないし、一部の無邪気な釣り人にも届いていないかもしれない。
特定外来生物に指定されたこと、またほかの世の中の流れも相まって、社会におけるバスフィッシングの居場所は縮小し続けている。
今回の改定でバスフィッシングにとって致命的な内容が盛り込まれる可能性はほぼないと思われるが、この先の動向によっては、地域単位での禁止が加速する可能性は十分にある。
外来生物法も、この指針も、最終的な運用や規制はそれぞれの地域に委ねる面が大きい。
バスフィッシングの居場所がどうなるかは、今後のバス業界やバサーの振る舞い次第。
20年前から、いやもっと前からそうだったはずだが、切実に、現状はそう捉えられると思う。
【参考】
第1回検討会の資料一覧
(私が今回書いたことの素材はほぼすべてここにあります)
Basser誌は昨年、同様の危機感で啓発記事を載せている(詳しいルールの内容も分かる)
「守るべきバス釣りの法律とルールまとめ/これからもバス釣りを続けていくために必要なこと」
業界で孤軍奮闘されるIKE-Pさんの記事から本件にも関わりの深いもの
福井県 コクチバス再放流禁止が決定
(「IKE-Pの釣れづれ日記」より)
【2025年2月3日追記】
この記事を書いた後に、日本釣振興会が12月2日に環境省に意見書を提出していたことが分かった。下のリンクは意見書の内容を報じた『釣具新聞』のニュース。
日本釣振興会が「オオクチバス等に係る防除の指針改定に係る検討会」に抗議。環境省に意見書を提出