雛喰らい喰らい

今年は秋にヘビーな仕事の予定が入っていて、6月に釣りに行ったとき、これでしばらく釣りにはいけないだろうと思っていた。
案の定、それからは余裕のない日々。
時間がないわけではないものの、精神的にも体力的にも、仕事以外のなにかに力を使うことが難しくなってしまう。

峠を越えたあともすぐに状況は変わらず、久々の釣りとなる「JUNKYS JUNKYS」には、前の釣りから少しだけ顔ぶれを変えて臨むことになった。

今回はジュニアくんの船に乗せてもらう。
ほかのイベントで話をすることはあったけれど、一緒に釣りをするのははじめて。

僕が最初に結んだのはチックイーター(CHICK EATER)。
デカくて、3Dのシェイプに鮮やかな青をまとい、赤い目玉で怪しくにらみをきかせる異様な存在感のペンシルベイトは、釣りの休止期間に届いた去年のJUNKYS JUNKYSのスペシャルプラグ。
使う日を心待ちにしていた。

久しぶりの釣りだし、ルアーは重たいし、護岸にぶつけるのも怖いしで、狙ったところから2メートルくらい手前に落ちるキャストが続く。

ジュニアくんと、バス釣りを始めたころのこと、トップウォータープラグのこと、家族のことなど、名刺交換するみたいにひとしきり話す。
てらいのない彼のおしゃべりが新鮮で楽しく、自然と気持ちも落ち着いてくる。
思った以上に冷え込みがきつい朝、一昨日の雨で川には濁りが入り、微風が水面を波立てていた。

斜めになったコンクリート護岸、水中にはゴロタ石が沈んでいる。
一カ所、積まれたゴロタが頭を水上にのぞかせていて、その際を狙ってキャストすると、ようやく納得のいくあたりにルアーが着水した。

わしゃ、わしゃ、わしゃ、と、水をかき分けてしぶきを上げながらのショートスライドを5、6回したころ

どぉぼぁー!

凄まじい重低音とともにルアーが消えた。
一瞬あっけにとられかけたところを、ラインを張らなければと、急いでリールを巻く、と

ぷんっ

と微かな感触がした。

え?
そのまま巻き続けながら、起きた事態をすでに知っている自分と、信じたくない思いが交錯する。

スパッと切れたラインの先にルアーはなかった。

ルアーが浮いてこないかとあたりを見ていると、護岸際でバシャッと魚が跳ねたが正体は分からなかった。
大きくて、目立つ色だし浮力も強いルアーだから、外れたら見つけやすそうなものの、流れのある大きな川ではそう簡単にいかなかった。
しばらくあたりを探し、周りの人たちにも経緯を話して気にしてもらったが、この日プラグが帰ってくることはなかった。

あのものすごいバイト、ラインの切れ方、いったいなんだったのだろう。
バイトの感じはナマズのような気もするし、切れ方を見るとシーバスのエラにあたったのかも知れない。
無事に外れてくれるといいのだけど…

じつはトップウォータージャンキーのプラグをロストしたのは生涯で2回目のこと。
20年ほど前にイトウにのまれてモブスをラインブレイクしたことがあった。

あのときは増水と濁りの影響でスイッシャーへの反応がとてもよく、初日にモブスでイトウをキャッチした。
夜のバンガローで、眠る前にライトをつけてプラグを眺める。
ブルーバグカラーのそれは初めて手に入れたモブスで、地元の野池で50cm近いバスを釣ったこともある。
いくつかのバスの歯形と、今日新しく付いたイトウの歯形。
とてもいい感じに育ってきた。
使い込んだたたずまいと釣り上げた魚の跡は誇らしげでもある。

翌朝に入った上流の区間、太い木の枝が折れて川に刺さり、そこに木くずが溜まって水面を覆っている。
バックハンドで溜まりの左側、流れの筋にルアーを投じ、首を振らせながらギリギリを通す。

3回ほどターンしたところで、木くずの下からドッバーンとイトウが出てきて、頭を数回振ったところでラインテンションが消えた。

あまりにショックでそれ以降は釣りをする気力がなくなり、すべてのポイントを同行者に狙ってもらったし、帰ってきてからも長いこと引きずっていた。
あれを思うと、今回は、ルアーが自分のものになる前にいなくなってしまったようで、こちらが取り残されたような気分。

それから10日ほどたった11月13日の朝…

スマホの通知に「おった!」というKenziさんからのメッセージ。
あわてて開くと、チックイーターを手に持った写真が飛び込んできた。
ラインアイからは黄色のラインが5cmほど伸びて切れていて、ベリーには「Dashiyo」のサイン。
陸っぱりをしていたところ、沖に青いルアーが浮かんでいたそう…奇跡!

こうしてチックイーターは、ふたたび僕のボックスに収まったのだった。

ロストしたあとは釣りそっちのけでジュニアくんが探しまわってくれたし、優しい言葉をかけてくれた人たちや、イベントの後日に浮いてないかと探してくれたりした人もいたようで…
そんな皆さんの気持ちがとてもありがたい。
それと、それらのやり取りから、僕たちにとってルアーがどれほどかけがえのないものなのか、あらためて教えてもらったような気もしている。

さて、ルアーに残されたこの歯形…
雛喰らい(CHICK EATER)を襲った主は、だれ?

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