reported by dashiyo
はじめに
作ったそもそものきっかけは、友達が見せてくれたアメリカのカタログからで、そこにヘドン社の例のペンシルベイトが、載っていたからである。
「このプラグはなんなの……」
と、聞くと。
「スティックといってね……」
と、たしかそんなふうにいった。
そして、さらに、どうやって使うのかと聞くと。彼はそれらしき動きを手ぶりで示しながら、ウォーキング・ザ・ドッグをさせるのだと答えてから、
「でも、犬が歩くって、どういうことなんだろうね」
と、つけ足した。
今となっては、そんな得体の知れないプラグなどにどうして魅かれたのか、まったくもって見当がつかないが、もしかしたら
「……って、どういうことなんだろうね」
そのひとことによって、持ち前の好奇心がつい浮かれだしたのかもしれない。
羽鳥静夫「The Story about “PLUG” vol.3」『Basser』No.4(つり人社、1987年)より
羽鳥さんは、ペンシルベイトを作りはじめた最初のきっかけを、このように書き残している。
性能やデザインではなく、言葉に誘われたあたりがなんともユニークだと思う。
こうしてザラⅢ、さらにインナーハンドW.B.という、ハトリーズを代表するペンシルベイトが誕生することになった。
さて、これから僕は、この2つのペンシルベイトの誕生の背景を辿りながら、それらの意義や魅力について考えていきたいと思っている。
そのはじめに、文中の「ヘドン社の例のペンシルベイト」にまつわる歴史のことから話をしようと思う。
同じ文章のなかで、羽鳥さんは、そのプラグが日本に入ってくる前にザラⅢを完成させたのだと語っている。
少し遠回りにはなるが、このあたりの事情を整理することで、冒頭シーンのシチュエーションはもっとクリアになるだろうと思うからだ。
そして、「犬が歩く」ということが、羽鳥さんだけでなく、今の僕たちにとっても大きな意味を持つ言葉として、立ち現れてくるだろう。
1.ジャンプベイト・ザラ
文中に名前こそ出てこないが、「ヘドン社の例のペンシルベイト」とは、ザラスプーク(ZARA SPOOK)のことで間違いないだろう。
ヘドン社は1920年にウッド製のザラゴッサ(ZARAGOSSA)を発表し、1939年にそれを樹脂化したザラスプークをリリースした。
のちにファーストと呼ばれることになるこのザラスプークのアクションはとても優れており、今ではペンシルベイトの元祖だと評価されている。
ハトリーズのプラグも、ザラによって築かれたアメリカのペンシルベイト文化を参考にしながら、独自のアレンジを加えて生み出されたのだと、僕もそう思ってきた。
しかし、どうやら事実は異なるようである。
ザラゴッサやザラスプークは、誕生から長い間、首振りアクションではなく、左右(ダート)と上下(ダイブ、ジャンプ)の動きを織り交ぜた、今でいうパニックアクションのようなアクションで使われてきたようなのである。
その最たる証拠となるのが、ほかならぬヘドンのカタログにおいて、ザラがそのような使い方とともに紹介されているという事実だ。
カタログを辿っていくと、じつに1975年まで、多少の相違はあるものの、同様の紹介が続けられているのだ。

誕生から30年以上経った1974年、この長い膠着状態に大きな転機が訪れた。
バスプロのチャーリー・キャンベル(Charlie Campbell)が、ザラスプークを使ってバスマスタートーナメントで優勝したのである。
さらにその3年後には、『バスマスターマガジン』2月号にラリー・メイヤー(Larry Mayer)による“The GREAT ZARA SPOOK HUNT”と題した長大な特集が掲載され、チャーリーの優勝や、その後のザラスプークをめぐる騒動が広く知れ渡ることになった。
このムーブメントこそが、ザラスプークというプラグの存在そのものを変えることになった。
特集記事によれば、以下のようにその経緯をまとめることができる。
まず、それまでザラスプークは、「ジャンプベイト」などとも呼ばれ、スクールでベイトを追いかけるバスに効果的なプラグだと考えられていた(これは、僕がカタログの説明文から推測したこととも合致する)。
それが1960年代ころから、一部のバスマンの間でザラの連続した首振りアクションの効果が知られるようになり、想像以上にさまざまな状況でバスを誘うことが分かってきた。
チャーリー・キャンベルもその輪の一員で、1974年の優勝は、こうしたザラの発見と可能性の探求が実を結んだ出来事だったようだ。
このときに起きた「ザラハント」については、聞いたことがある人も多いと思う。
チャーリー・キャンベルが優勝した1年前、ヘドンはザラをブラスプレートリグを搭載したセカンドバージョンにリニューアルしてしまっていた。
強度の代わりに浮力を犠牲にしたこのタイプは、ザラの首振りアクションの威力に気づいていたかのバサーたちには不評で、みなファーストタイプを選んで使っていたという。
こうしたなか、ウイニングルアーになったことで火がつき、ファーストザラを探して各地を回るムーブ、つまり「ザラハント」が起こった。
釣りバカハンターたちの手は、バス釣りに熱中していた夫がいた”widows(未亡人)”にまで及んだというから恐ろしい。
ヘドンがよかれと思ってザラをリニューアルしたという事実も、この当時はまだ、首振りアクションやその有効性が認識されていなかったことの証だろう。
2.wAlking the dog
ファーストザラの再評価とともに、その知られざるポテンシャルを引き出すテクニックとして脚光をあびたのが”walking the dog”である。
プラグをダイブさせずに、左右に交互に動かすためのロッドやライン捌き…、つまり、連続で首振りアクションをさせるテクニックのことである。
また同時に紹介された”half step”は、それを基本にしながら、ロッドを捌く力加減に強弱をつけることでスライド幅を調整し、障害物をタイトに攻略するテクニックのことだった。
今は当たり前のようにやっているこのロッドワークは、当時”THE PRO’S TOP TACTIC(プロの最上の戦術)”として紹介されている。
僕たちにとってなじみ深い、ペンシルベイトが首を振る軌跡を示すイラストも、この頃はじめて登場したものと推測される。

この事態を受けて、ヘドンはまず1976年にザラⅡをリリースし、”walking the dog”を初めてカタログで紹介した〈*1〉。
そしてその2年後の1978年、ファーストをベースにしながら、左右の動きやそれに伴うアピールをさらにブラッシュアップさせたサードバージョンを、オリジナルザラスプーク(Original Zara Spook)として発表するのである。
このときのカタログには
”Now you need hunt no more!”
と誇らしげに書かれていた。

さて、ここで羽鳥さんの回想のシーンにつながる。
「犬歩き」にヒントを得てザラⅢを完成させたという羽鳥さんは、同じ文章のなかで、その翌年、もしくは翌々年に、ザラスプークが日本の店頭に並んだと回顧している。
ザラⅢの制作年は1977年ころと言われているから、羽鳥さんたちが見たカタログは1976か77年のもので、そこに載っていたのは”walking the dog”の申し子として先に世に送られた、ザラⅡだった可能性も考えられるだろう。
ここまでの話をふまえて、ザラⅢ誕生の状況をまとめてみたい。
2026年に生きる僕たちは、ペンシルベイトを操る術を知っているがために、ザラゴッサ、ザラスプーク、オリジナルザラスプークを、ペンシルベイトの一連の発展として、ひとつながりのものごとだと考えてしまう。
そして、ザラⅢやインナーハンドも、こうしたアメリカの先例をアレンジしたプラグであると。
が、このように辿っていけば、オリジナルザラスプークとそれ以前のザラの間には、”walking the dog”を想定しているか否かという前提の違いがある。
そしてそれは、バスフィッシングの歴史にペンシルベイトが登場する以前と以後を分けるほどの違いである、というのが僕の考えだ。
それが決して大げさではないことは、バス釣りをはじめたころのあなたが、はじめてこの棒きれを池に投げた日のことを思い出せば分かってもらえると思う〈*2〉。
つまり、ヘドン・オリジナルザラスプークとハトリーズ・ザラⅢは、どちらも”walking the dog”の名のもと、一方はアメリカ、もう一方は日本で、同時期に誕生した元祖ペンシルベイトの一群、ということになる。
ペンシルベイトの歴史は、これらのプラグからはじまったのである。
とはいえ、オリジナルザラスプークが”walking the dog”直系の子どもだとすれば、ハトリーズのペンシルベイトたちが生まれた状況は、また違うものであった。
「犬歩きって…」から生まれたプラグたち、後編ではその姿に迫ってみたい。
(後編につづく)*1月25日夜に公開予定です
〈*1〉
ザラⅡが1976年に登場したという記録から類推したが、その年のヘドンカタログは確認できていない。少なくとも1977年のカタログにはザラⅡと”walking the dog”が登場している。
〈*2〉
このことは、アメリカのペンシルベイト(らしきプラグ)を年表のように並べてみれば、よりはっきりするはず。ちなみにファーストザラに酷似したシェイプを持つ発砲製のブーン・ジグザッカーの発売は1975年。このムーブをいち早くキャッチして開発されたルアーだと想像される。