バブルダンサーと因数分解

reported by 福ピンク

バス釣りにのめり込んだのは大学生の頃からなので、今から20年程前になる。
そこから一貫してメガバス好きで通してきてはいるが、1番好きなルアーは何かと聞かれれば、それはハトリーズのバブルダンサーとなる。

決してルアーコレクターではないし、正直な話、ハトリーズのルアーも数えるほどしか使ったことはない。
それでも何故バブルダンサーなのか。
その経緯と理由を、この場を借りて整理したいと思う。


ハトリーズとの出会い

バス釣りにハマったのが大学生頃とはいえ、1988年生まれなのでゴリゴリのグランダー世代であり、グランダ―武蔵のおかげでバス釣りを身近なホビーのひとつのように経験した。
ハトリーズとのはじめての出会いはその頃まで遡る。

『ルアーフィッシング入門(山と渓谷社)』の、バス用トップウォータールアーの項目に掲載されていたパフィートップと目があった。
まわりのルアーとは明らかに雰囲気の違うその佇まいに強く惹かれたのを、今でも覚えている。
とはいえ、小学生の財力と行動力では、パフィートップを手にすることは無かった。

流行りもののひとつとしてバス釣りに触れるという、当時の子供たちにとっては普通すぎる経験だが、ひとつだけ他人と違うところがあった。
ルアー作りに手を出したのだ。

専用部屋を作るほどの木工趣味の父を持った影響で、幼稚園の頃からナイフは使えたし、ルアー作りのための道具も一通り揃っていた。

きっかけもまたグランダー武蔵で、鉛筆を使ってルアーを作るエピソードがあり、それに挑戦したのだった。
結局、それは上手く作れなかったのだが、それ以降、親がルアー作りの本を色々と買い与えてくれるようになった。

そしてその中の一冊に『ハンドメイドルアーの世界2(枻出版社)』というものがあり、著名ビルダーの解説に混ざってハトリーズの年表が掲載されていた。

そこにはパフィートップこそ載ってはいなかったが、自分がハトリーズをハトリーズとして認識したきっかけであった。
バス釣りに歴史というものが存在していることすら知らなかった当時の自分(たぶん小5)からすれば、ハトリーズなるメーカーのルアーが複数ページに渡って大量に、しかも体系的に並べられている様子は衝撃的だった。

バブルダンサーとの出会いもこの頃だっただろう。
だが当時の憧れはパフィートップであり、バブルダンサーはいくつもある不思議な魅力を持つルアーのひとつに過ぎなかった。


『気が向いたらプラグ作り』

その後も色々なハンドメイド系の本を買ってもらったが、小6で出会ったのが羽鳥静夫氏の『新版・気が向いたらプラグ作り(アテネ書房)』だった。

当時の自分は文字だらけの本を真面目に読むことはできなかったが、レントゲン撮影によるハンドメイドルアーの断面図は当時の自分でもわかる異質さで、その年に最寄りの釣具屋が開催したハンドメイドルアーコンテストに、この本を参考に作ったルアーで応募したほどには影響を受けていた。

中学校へ進学する頃には他の趣味ができたり、部活が忙しかったりというありきたりな理由で釣りとは少し距離を置くようになっていたが、北海道の大学に進学し、釣り熱は再燃した。

そしてその流れで、当然のようにルアー作りも再開した。
夏は北海道でトラウトや帰省してバスを釣り、冬は部屋にこもってルアーを作るというサイクルがちょうど良かったのだ。
実家に帰省したついでに、仕舞いこんでいたハンドメイド関係の書物を全て北海道に持っていき、改めて勉強した。

そしてそこで初めてまともに『気が向いたらプラグ作り』を読むことになる。

小学生の自分にはピンとこなかったが、非常にわかりやすく、実益的な内容がまとめられており、それと同時に羽鳥氏がルアーを作る際に込める魂の一端を垣間見ることができた。
もちろん、書かれた時代(初版は昭和58年!)的に古くなってしまっていた内容もあったし、当時の自分はリアルミノーに傾倒していたため直接的な学びがあったわけではない。
それでもルアーを作ることの何たるか、そしてその先に何が待っているのか…その多くを学ばせていただいたのは、紛れもない事実だ。

なかでも、最も印象深く、今なお自分に影響を及ぼしているのがルアーのイメージ図を描くという作業だ。

要約すればそれは「引き算」の美学だった。
モチーフとなる生き物を詳細にスケッチして、そこから余分なものをそぎ落としていくのだそうだ。
その工程の意味を理解した時、自分の頭の中でハトリーズルアーが鮮やかに輝きだした。
ああ、ハトリーズルアーのなんと多彩なことか。
ともすればツルっとした、捉えどころのないデザインには、引き算の美学が込められていたのだ。

新しい言語を得た。
大げさに言えば、そのくらいの衝撃があった。

そして改めてハトリーズルアーを眺めていて目に留まったのが、バブルダンサーだった。

えさをもらおうとするひな鳥のような大きな口。
滑らかかつダイナミックなボディライン。
すでにその存在を知っていたはずなので正しい表現ではないのだが、それはひと目ぼれ的な衝撃だった。

このルアーで釣りたい。
心からそう思った。

メガバスに魅了されたのが同時期だったことも要因かもしれない。
相対的に見れば、両者の立ち位置が真逆にあるのは明白だ。
ハトリーズが引き算の美学なら、メガバスは間違いなく、足し算の美学の中にあるだろう。
だからこそ猛烈に惹かれ、両者は今なお自分の中の異なるポジションを陣取っているのだ。


因数分解の美学

バブルダンサーは分類でいえばポッパーなのだが、その存在は誕生から数十年経過した今でも唯一無二であると考えている。
実は「バブルダンサー」のオマージュルアーを作ろうと何度か挑戦しているのだが、うまくいったためしがないのだ。

まず、頭では理解しているつもりでもこの形状を描くのが非常に難しい。
ぜひともスケッチに挑戦してもらいたいのだが、恐らく納得のいくものは描けないだろう。
それくらい、独自の曲線美を持っているのだ。
さらにそれが3次元的になれば、なおさらのことだった。

例えば口。

正面から見れば真円に近いが、真上から見た唇はセンターに向かって飛び出した三角形に近い形をしている。
そして横から見た唇のなんと薄いことか…。
『気が向いたらプラグ作り』にも書かれている通り、しっかり補強しないとミスキャスト1発で吹っ飛んでしまうだろう。
だが、ポッパーとしての機能を持たせるためのデザインなのは、疑う余地もない。
ここだけ見ても複雑かつ独自の曲線を擁していることがわかる。

そしてボディ。

腹側は下顎から滑らかにくびれてゆき、ボディ中央辺りで尻下がり方向へと再び滑らかな曲線を描いていく。
それに対して背中側は全体の3分の1ほどの場所でクビレのピークが訪れ、そこからはバブルダンサーを象徴するセッパリを頂点として大きく弓なりのアウトラインを描いていく。
このとき、ボディ下部の曲線の頂点が、ボディ上部のくびれのピークともセッパリのピークとも重なってはいない点に注目してほしい。
このセッパリのピークがやや後方に位置している点こそがバブルダンサーの美しさの極致であり、それと同時に普通のポッパーとは一線を隔している要因であると考えている。
浮力バランスが絶妙なのだ。

また、ボディ部分の断面形状もふつうではない。
背中側は丸みが強いのに対し、腹側はフラット形状となっている。
尻下がりのテールと合わさることでボディ後端はアクション時に浮かび上がりやすい、つまりダイビングの姿勢を取りやすくなっており、またロール方向の動きを生み出すのにも貢献しているのである。
ちなみに顎下は丸みが強いため、クビレあたりで断面形状は切り替わっている。

クビレ部分は単なるヘッドとボディのつなぎ役というイメージをもってしまうかもしれないが、このクビレの持つ意味合いも大きい。
特に長めのストロークで動かした際には、口周りから発生した気泡が水流の都合でこのクビレにまとわりつき、気泡をより長い距離にばらまくことができるのである。

つまり、バブルダンサーを構成する曲線の持つ美しさは、見た目だけでなく、機能性を含んだ美しさでもあるのだ。

先ほどはハトリーズのルアーを引き算の美学と書いた。
しかしながら構成要素をよく見ていくと、それは決して引き算の末に残った残り物の集まりではないことがわかる。
意味を持たせつつも、最適化された形でルアーを構成する曲線美。
それは「因数分解の美学」と評するのが正しいのかもしれない。


プライムタイム

バブルダンサーでバスを釣るのには時間がかかり、はじめての1匹は社会人になってからだった。

それで良かったとも思う。
計算され尽くした美しさと機能に惹かれて使い続けるうちに、バブルダンサーは、自分にとってプライムタイムを過ごす相棒のような存在になっていったのだった。

この先、何度も、何度も、あのとぼけた顔のひな鳥と素晴らしい時間を過ごしたい。
理屈抜きでそう思う。

今はそれが自分にとってのバブルダンサーである。



Twitter: 福ピンク

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