真冬のダム湖。
狭いスロープでアルミボートを回転させながら不用意に腕を前に出したため、船首のホソミを1月の湖に突き落とすところだった。

何年ぶりか分からない真冬の釣行は楽しかった。
湖上に僕たち以外の釣り人はおらず、寒さも凍えるほどではなくて、水鳥や猿がときどき姿を現した。
水は透き通り、倒木がとてつもなくでかく見える。
ダム最上流の流れのあるところに白い鯉が泳いでいたのと、上陸のために入った小さな流れ込みの筋で、水底に敷きつめられた落ち葉の上にたくさんの小魚を見つけた。
バスの姿を見つけたかったけどそれはかなわなかった。
勝手が分からなくて恐る恐るしてきた冬の支度。
メリノウールの肌着、防寒用の靴、マフラー、ホッカイロ、水筒の熱いお茶、カップラーメン。
ホソミの膝掛けはうらやましかった。
ホソミも僕も、いつの間にか野球少年の父である。
野球は子ども以上に親が熱心なスポーツというイメージがあり、こうなるつもりは毛頭なかった。
一年前の自分に今のことを告げたら「いやいやいや、それはない」と信じないだろうと思う。
年明けに新しいバットを買ってあげたとき、専門店の店員さんが期待したアドバイスをくれなくて、帰ってから「なんかちょっと細いな」ということに気づいた。
検索すると、これはこれで得意不得意あるらしいのだが、「このバットを使うことで変なクセがついてしまったら…」と不安に襲われる。
いやいやいやいやいや、ちがうちがう。
なにがなにで、どう問題やねん。
なにを目指してんねん。
だれやねん→おれ。
一生懸命な子どもの姿を前にすると、つい。
みたいなことがやはりあるのだった。

この日のロッドは6ftと5.6ftの2本。
どちらも一緒くらいのパワーの先調子のグラスロッド。
これまでは同じ長さのLとMLを持ち込んで、ルアーのウエイトや抵抗によってロッドを使い分けていた。
それを、求めるプラグの動きによって長さを変える、ことにしてみている。
よりアグレッシブなアクションを求めるときには短い方、首振りに柔らかいニュアンスを出したいときは長い方、というように。
持ち替えたときの違和感もほとんどなく、いい感じでプラッギングできているので、しばらくこれを続けてみようと思う。

11月にRottonで買ったプルトニウムシロップのバブルトーン。
お店の10thのときのオリカラで、ひとつ前のモデルになるらしい。
となると10年近くショーケースにあったはずだが、なぜか今、びびびときて連れて帰ってきた。
1キャスト目はよく分からず、2キャスト目にやや強めに首振りをさせてみたら、鋭いターンと一緒にチャグチャグという高めの音色と大きい泡が出て、お、これか!ってなった。
それで楽しく投げていたけど、しばらくすると、どこかしっくりこない感じが頭をもたげてくる。
「自分だけに見せてくれる顔みたいなのがないと、ですかね」とホソミが言う。
その通りだと思う。
と同時に僕は欲張りなので、プラグが目の前で起こしていることを自分が捉え損ねているのではないか…という可能性を想像してしまう。
どう捉えたらよりしっくりくるのか。
それには経験が必要なのかもしれない。
一匹釣れたら世界が変わる、という身も蓋もないこともよくあるし。
気がつくと夕方近くまで9時間ほど湖を回って、なにも起こらなかった。
でもまだ1月だ。
最後にホソミが「いい素振りができた」と言ったので、「それ釣行記のタイトルにしよう。ボーズだったってバレちゃうけど」と応えた。