
ここまで、「ブラックバスの現在地」と「バスフィッシングの現在地」で、バサーがおかれた状況をひとつずつ確認してきた。
新しい知識や経緯、考え方を学ぶことにはなった。
ただ、バサーにとって明るい話題はなく、突破口も簡単には見出せそうにない。
いくつもの重たいふとんがのしかかる。
ここまでをふまえた上で、「それでもなお」と言葉をつなぎたい。
それでもなお、バス釣りをやめることはなく、ブラックバスのそばに立ち続ける、その道を選びたい。
私のバスフィッシングは、ルアーへの憧れからスタートしたのかもしれない。
友人に連れられて初めて行った野池では、釣りはせずにゴムボートに乗って「ルアー獲り」をした。
枝のすき間に黄色い蛍光色の小さなミノーを見つけて、精一杯手を伸ばした。
「よく見つけたね」と友人が言ってくれた。
それからわけも分からず通いつめ、ようやく手にしたバスを釣ったのは、鮎カラーのミノーだったと思う。
バスワールドの創刊号(バスギア)は、ルアーの写真と主観的な説明にひかれて何度も読み返した。
いつしかトップウォータープラグにのめりこみ、ハンドメイドルアーのシーンをおいかけ、大学進学で北海道に居を移してからは、トップウォータープラグでのイトウ釣りにのめりこんだ(留年した)。
釣りサークルで仲間たちと話しながら、北海道で釣れないブラックバスへの憧れをあらためて募らせた。
そのかっこうよさ、どことなくコミカルなたたずまい、1匹ずつの個性、背景にあるカルチャーを、このころから特に意識したと思う。
ひとつ転機となったのは、4年目くらいからまともに行き出した大学での勉強と、プラグ文化とをリンクさせて考えるようになったことだった。
大好きなプラグを軸に、プラグの発展の歴史や文化的な特質について考えることがライフワークになった。
大好きな釣り道具は、人間の創造性がいかに働き引き継がれていくかについて、多くの示唆を与えてくれた。
プラグの歴史が持つ豊穣な世界を教えてくれた。
のちに、そうしたあり方を書き記し、本という形にして出版する幸運にも恵まれた。
就職して大阪で暮らすようになってからは、トップウォーターでのブラックバス釣りだけをするようになった。
思い出深い魚との出会いが何度もある。
こうした私のバスフィッシング歴は、先人や友人たちに導かれ支えられている。
文章を書く習慣も、こんなホームページを拵えるのも、先人から受けた影響の延長にある。
今、この瞬間も、全身を注いでプラグ作りを続ける人がいる。
その魅力を伝える人、それを自分のものにして操る人がいる。
そんな仲間たちの力を借りて、私のバス釣りがある。
ほんとうは、そのことだけで、バス釣りをやめない十分すぎる理由である。

ブラックバスがトップウォーターにバイトする瞬間を、どうたとえたらいいだろう。
プラグと呼吸がひとつになった研ぎ澄まされた世界に、突如おとずれるあの瞬間。
全身を貫く衝撃。この世界で起こる、ほかの何にも代えることのできない出来事。
下あごを掴んだときの胸がいっぱいになる感覚は、祝福、という言葉を思い起こさせる。
手足の震えとともに、自分自身が、世界から圧倒的に肯定される。
そんなときに撮影された写真で、私はいつも脳が溶けたようなアホ顔をさらすことになる。
バスフィッシングという血が、私のなかに流れている。
私にとっての趣味(=バスフィッシング)とは、人生を華やかに彩るものというよりも、それによって自分が形作られ、それなくしては今の自分が自分ではなかった、というようなもののことである。
そういう人たちが私のまわりには何人もいて、それぞれバス釣りと関わり、手をつなぎあっている。
このような奇跡をもたらす魚を、釣りを、どうして否定したり、やめたりすることができるだろう。
終わりに、ひとつのシチュエーションを想定したい。
ある湖で、ブラックバスの駆除が検討されているのだという。
それにはもっともな理由がある。
この環境では、バスによって希少な在来種の命が脅かされていることを疑うことは難しい。
データもある。
その希少な生き物がかけがえのないものだという気持ちは、私にもある。
彼らを妨げることはない。
ただ、私はそれを望まない。
分かった顔して「仕方ない」と言葉にすることもないだろう。
私が投げるプラグの向こうには、いつも、この上なく特別な、ただ1匹のブラックバスが泳いでいる。
(終)
四半世紀以上前になるのに、バスを釣った時のシュチュエーションを今だに鮮明に覚えている魚が何匹も居る。
良いのか悪いのかは分からないけど、やっぱり何かしらの魅力がある。
何でか分からないけど他の魚ではダメなんだと思う。
行ける機会が、めっきり減ってしまっているが、これから先もバス釣りを辞める事は無いと思う。
昔を思い出して、胸が熱くなりました。
ジェームス森さん
わっ、素敵なコメント!
読めてよかったです。
お互いやめずにずっと楽しめますように。
ありがとうございます。
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