グロデベ・キャンディシュリンプ

penned by dashiyo

新しい月がくると、行きつけの上州屋のレジ横に『タックルボックス』が平積みになった。
家に帰って、ほとんどが広告のカラーページを1枚ずつめくる。
ていねいに、というか、固唾を飲んで、といってもいい。
なぜって、つぎの瞬間、新しいルアーとの出会いに貫かれるかもしれないのだ。

去年、ぼーっとインスタグラムを見ていたら、このプラグが目に飛び込んできた。
つの字に折れ曲がったルアーが、カラフルな装いで並んでいる。

なんだこのかたち!

衝撃だった。
新しいものに触れたテンションで、いきおいTwitterに「なにかの賞を受賞してほしい」と投稿した。
と同時に、バス釣りをはじめて30年、いまだにルアーに驚くのかということにも驚いて、今はもうないバス雑誌をめくった中学生の記憶がよみがえってきた。
ルアーそのものへの憧れ。
その特別さ。

だけどこのときはイベント販売だったし、手に入れようとまでは考えなかった。
このメーカーはいつも気になっていたが持ってはいない。
あまり自分らしいスタイルのルアーだとも思えない。
ひと目惚れしたルアーをなんでも手に入れたいと思う時期は過ぎていた。

それから数ヶ月後、レギュラーリリースの告知。
寝る前にインスタグラムで見つけて、また驚いて、こんどは愛用のフランボーボックスに入ったところを想像してみた。
……ありえるかも知れない。

そしたらその夜の夢に出てきた。
夢に出てくるのはずるい。
好きになってしまう。

タイミングよくショップの告知を見てオンラインショップで注文。
カラーは「2WORMS」。
僕のタックルボックスに入っているとしたらこれだろうと思っていた色。
ビルダーさんの制作工程を紹介する投稿を見ながら到着を待つ。

さて、実物を目にして、どんな気持ちになるだろうか。
こればかりは、どれだけ画像で見ていても予測できない。
だから楽しみだし、緊張する瞬間でもある。

仕上げや質感はどうだろうか。
それに、大きさと重さのあんばいはどんなだろう。
想像より大きくてずっしり、となると辛いかもしれない。

グロデベのキャンディシュリンプ

ルアーが届く。

わっと目に飛び込んできたのは、ワームのかたちの蛍光カラー。
透明のパッケージ越しに主張が強い。

おっ。
やった!
大きくない。
むしろ小さめかも。

軽やか!
手に乗せた心地から、浮力を感じる。

やっぱり描かれたワームの存在感がすごい。
ワームと、見たことのないかたちのボディ。
どっちに驚いているのか分からなくなる。

目玉の色が左右で違う。
ワームに合わせた色になってる。
精巧で、ちょっとだけ歪んでいて、いたずら心をひめたとぼけた表情で見つめ返してくる。

特注だというビスは、かっこいいマイナスネジだった。
座ぐり加工でネジの頭がボディに埋まっている。
そのおさまり具合もいい。

ボディの色は黒だと思ったらグレーだった。

リップはポリカーボネイド。
やや右寄りに押された刻印。

と、ここまで一気に眺めた。

手のひらに載せると、なにか素晴らしいものがここにあるんだという実感がこみ上げてくる。
勝負は決まった。
こりゃあ、いいぞ!

ひと息ついて、フックカバーを外して、じっくり眺め直す。

グロデベのキャンディシュリンプ

横から全体を見ると、クランクベイトのシルエットが浮かぶ。
ポリカーボネイドのリップからも、オールドファッションなクランクらしさを感じる。
初見で度肝をぬかれて、ちょっと購入を迷って、でも一歩踏み込んだのは、これのおかげかもしれない。
目新しさだけではなくて、その新しさが伝統と遊んでいる感じ。
そこに自分にとっての理由が生まれたんだと思う。

この特殊なかたちを補強し成立させている特注のビスは、先端と根元だけにネジが切ってあるらしい。
見えているネジの胴部分、堂々たる金属の輝きは大黒柱。
その見えないところで、ネジが踏んばっている。

かのワームのインパクトが、特殊印刷のように迫ってくる。
よく見ると部分的にエアブラシで陰影がほどこされ、立体感が演出されているのだった。
エビ型ボディは強固なキャンバスなのか。
特注の額縁のなかで、ジェリーワームが思い出以上の輝きを放っている。

むかし、フルサイズの大橋篤揮さんが雑誌で、ティートのフラッパーを挙げて語っていたことを思い出した。
「100%でベースを作るから、色で100%遊べるんだ」*

さて、そろそろまとめたい。

みなをあっと言わせるユニークなかたちと色。
いくつものオリジナルパーツ。
惜しみなく手をかけた木工やカラーリング。
作り手の美意識と息づかいが、隅から隅まで行き渡っている。

で、あらためて手のひら乗せてみると、このプラグ、まるでガチャガチャのおもちゃみたいなのである。
膨大な手間ひまがこのたたずまいに結実しているのがうけるし、感動的でもある。
事情を知らない人に値段を伝えたらきっとクレイジーだと言われる。
その通りだ。

そんなムードに触発されて、タックスボックスにもちょっと雑な感じで放り込んでみる。
プラグもそういう関係をうれしがっているだろう。

お風呂テストによれば、トップウォーター使いのクランクとして、独自の楽しいプラッギングができそう。
水面で小刻みにシェイクし、ちょっと間をおいて、ぶるるっと逃がして「ぱくっ!」と食わせてみたい。
ワッキーリグで釣るはじめてのバスになる。

と、いうわけで。
私の「今、好き」なバスプラグは、グロデベのキャンディシュリンプでした。


*「自分で作ったもの以外でベスト5」『スポーツ&フィッシングニュース』2005年 10月号